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働き方改革が後押し?現場の省人化は待ったなし2021年3月19日

働き方改革が後押し?現場の省人化は待ったなし

少子高齢化の進行にともない、国内の労働力人口は2000年をピークに減少の一途をたどっています。現在のままの人口推移が続けば2035年には労働力人口は6000万人を下回り、人口の三分の二を切ると予想されています(*1)

労働力人口の減少はそのまま国力の低下へとつながる危険な予兆であり、政府はこれまでにも様々な施策を打ち出してきました。

そうした施策の中でも「働き方改革」は、「少子高齢化」「出生率の減少」「労働人口の減少」など様々な課題に直面しており、政府は投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境作りに対して様々な政策を打ち出しています(*2)

政府の提唱する働き方改革では、製造の現場が抱える様々な問題に多方面から解決策を提示し、現場の生産能力の低下を最低限に抑えようとしています。

今回はその中の一つ「現場の省人化」についてご紹介します。

現場に求められる働き方改革とは?

働き方改革と聞くと「残業制限」や「ワークライフバランス」「男性の育児休暇取得」などを思い浮かべる方が多いでしょう。これらの施策は必要なものではありますが、一方で生産に携わる労働力を圧迫し、現場の生産能力を低下させるといった負のイメージも持たれています。

もちろん、働き方改革が本来目指すものは現場から労働力を奪うことではありません。政府推奨の働き方改革では、前述の「残業規制」や「男性の育児休暇取得」などを推奨し、これまでは積極的に労働に参加することが難しかった女性などの社会参加を積極的に後押しし、結果として国内全体としての総労働力人口を増加させることが目的です。

また、そうした取り組みに対し新たな技術の導入を検討する企業などには積極的に資金や技術を提供することで、労働力人口の確保だけでなく労働生産性を向上させ、国力の低下を抑制するという目的があります。

少ない労働力で最大の成果を

今後新型コロナウィルスによる需要減の課題もありますが、国内企業の99%を占める(*3)中小企業が本質的に抱える人手不足の課題(*4)を解決するには中小企業が労働生産性を高めることが重要になると考えられます。

引き続き国内の人口は減少傾向にあり、2050年までに日本の人口は1億人を切る(*5)と見込まれ、一層人材雇用が困難になると想定されます。そのため、一人当たりが生み出す付加価値を向上させながら労働生産性を高めていくことが不可欠になります(*6)

一方、日本は世界でもトップクラスの経済大国でありながら、労働生産性はOECD加盟国で比較すると低い状況でG7の中では最下位です(*7)

労働生産性向上のカギは省人化

では、どのようにすれば生産年齢人口が減少していく中で労働生産性を維持し、向上させていくことができるのでしょうか。そのカギは「省人化」にあります。

日本では古くから「職人」が尊重され、人の手によって生み出されるものに大きな価値を見出してきました。また、製造の現場ではそうした職人の仕事に支えられる形で生産業務がおこなわれ、「生産力=人間力」の図式が広く浸透しています。

しかし、それでは今後労働力人口が低下していく中で、生産力の低下を避けることはできません。そこで現場に求められているのがITやロボットなどを用いた現場の省人化です。

現場の省人化の具体例とは

現場に求められる省人化には大きく分けて二つの要素が存在します。

1つは実際の作業を人ではなく別の手段で行う省人化、もう一つは人間の考える作業をAIなどに置き換える、頭脳の省人化です。いくつかの例を紹介したいと思います。

ロボットによる省人化

まず最も簡単に確実に省人化を図ることのできる手段として注目されているロボットの導入です。

国内では既に有能なロボットが人の代わりに作業をこなすという取り組みは数多く導入されています。こうした高度な技術を持ったロボットは一昔前までは非常に高額で、導入にはハードルがありました。

しかし近年はロボット自体の性能の向上と合わせ価格面でも廉価な機種が多く開発されるなど、ロボット導入の障壁は一段と低くなっています。例えば倉庫で人力によって行われていた荷物の仕分け作業に専用ロボットを導入することで、オペレーターは複数のロボットに対して同時に指令を出せるようになります。結果として一人で複数の人間の役割を担う事ができるなど、ロボットを含む自動機の導入は現場省人化の大きな助けになります。

事例① カメラ・センサー・ロボットを組み合わせた検査工程の自動化

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自動車部品の生産を行う広島県の企業では、24時間365日無人稼働ができる工場を目指し、その一つとして人による作業・判断を要する部品セット工程や検査工程の自動化を進めています。

従来人の手で行っていた検査工程をカメラやセンサー、ロボットを組み合わせて自動化しました。人に頼った検査による見落としや、検査作業のばらつきを防ぐだけでなく、繰り返し作業による従業員の負担軽減に成功しています(*8)

AI導入による知能の省人化

これまでは職人やベテラン社員の勘コツに任せていた様々な作業を、AIやビッグデータ解析といった新たな技術に移管することでも現場の省人化を加速させることが可能です。

またこうした頭脳面での省人化は、作業者の能力に影響される生産性の差を小さくする効果も期待でき、働き手を選ばないという効果も期待できます。

もちろんAIやデータ解析も万能ではありませんが、機械に任せられることを少しでも増やし、人間が考えたり判断したりする場面を少なくするといった取り組みは、今後その重要度を増すと考えられています。

事例② AIを活用した加工の自動化

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静岡県に本社を置く光学機器メーカーでは、社長自らがプロジェクトオーナーになってスマート工場化を進め、AIを活用した加工の自動化に取り組んでいます。

材料と完成品の画像データを入力すると、加工手順を予測するシステムの開発により、過去に熟練者が行った加工手順・加工条件や完成品などのデータをAIが学習し、最初から最適な加工手順・加工条件を把握することが可能になっています。

従来は熟練者の勘と経験によって加工プログラムを作成していましたが、これらのシステムにより、熟練者の技能への依存度を軽減することができています(*9)

「熟練工がいなくなる日~あなたは技術伝承をどう考える?」でもご紹介しましたが、熟練工の技を次世代に伝えるための取り組みの好事例となるでしょう。

省人化によって得られた労働力をどう活かすのか

言うまでもなく、ロボットなどの導入によって置き換えられた労働力は会社にとっては大きな財産です。

これまでは100の生産を行うために100人の労働力を使っていた現場で、ロボットの導入により必要な人員を50人に削減できた場合、残りの50人は新たな生産活動に従事することができるようになります。その50人がまたロボットを導入して仕事を行えば、会社全体としては以前の倍である200の仕事をこなすことが可能になり、労働生産性はさらに向上します。

事例③ AIに強い開発人材を社内大学で育成

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大阪市に本社を置く空調機器メーカーでは、AI分野に長けた人材の確保が難しい中、内製による人材確保を目指して社員の再教育を実施しています。専門分野に関係なく人材を選抜して大学の教授や有識者の講義を受講する機会を設け、業務と直結したプロジェクト研修を進めています(*10)

この事例は省人化を単なる人員の削減で終わらせることなく、企業の発展へ繋げていく取り組みであると言えるでしょう。

まとめ

新型コロナウィルス感染症の流行直前は、空前の人手不足であったことを覚えていらっしゃるでしょうか。今後需要が回復すれば再び人材の売り手市場になることが予想されています。それでなくとも製造業界は慢性的な高齢化と人材不足に悩んできました。

技術力の継承をどのように行うのか、少ない人数でどうやって労働生産性を高めていくのか。解決の糸口は設備投資と生産改革にあると考えられます。その上で労働者ひとりひとりの付加価値を上げていく取り組みとして先端技術の導入が有効であり、それは工場の規模に関わらず言えることです。

もちろんすべての製造現場に闇雲にロボットや最先端の技術を導入することが良い訳ではありません。まずは準備と情報収集が重要になってきます。今の生産現場に何が不足していて、何が必要なのか。現場の課題をしっかりと把握して、その解決策としてどのような手段が最も効率的であるかを把握することが、現場の省人化を進める上での第一歩です。

また、上記のような検討を進める際の整理の仕方について、経済産業省がリリースしている「ものづくりスマート化ロードマップ調査」(*11)のような報告資料もご参考になると思います。

アフター・コロナにむけて、今のうちに本質的な人材不足や熟練工の技術継承などの課題解決を検討してみてはいかがでしょうか。

おまけ アネスト岩田の取り組み事例 ロボットを使った組み立て工程の自動化

取組事例はこちら(YouTube)

アネスト岩田では、秋田県工場のスプレーガン部品組付け工程を自動化しました。以前からネジ部の締め付け工程ではトルク管理をしていましたが、最後の微調整は作業者の感覚にゆだねることで品質を維持していました。この感覚を数値化することで、人にしかできなかった作業をロボットに行わせ、作業者はクリエイティブな仕事に従事することができるようになりました。

福島県のコンプレッサ工場でも、人による作業が必須と言われていたスクロールコンプレッサの組み立て作業を自動化しています。こちらも人に頼った作業による品質のばらつきを防ぐだけでなく、繰り返し作業による従業員の負担軽減に成功しています。

 

(参考文献)

1.厚生労働省 労働経済の基礎的資料
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/07-3/kousei-data/PDF/030105.pdf

2.厚生労働省「働き方改革」の実現に向けて
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html

3.独立行政法人 中小企業基盤整備寄稿 「日本を支える中小企業」
https://www.smrj.go.jp/recruit/environment.html

4.中小企業庁 事務局説明資料 2020年10月5日
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/kihonmondai/seidsekkei/download/005_02.pdf?0826(P16)

5.内閣府 「選択する未来」委員会 資料「選択する未来」第2章人口・経済・地域社会の将来像
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/s2_1.html

6.厚生労働省 「我が国の労働生産性をめぐる状況について」(働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について)
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/18/dl/18-1-2-1_01.pdf

7.総務省 人口減少時代のICTによる持続的成長
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd131110.html

8. 経済産業省 製造業基盤白書(ものづくり白書)第2節 人手不足が進む中での生産性向上の実現に向け、「現場力」を再構築する「経営力」の重要性
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2018/honbun/html/honbun/101025.html

9.経済産業省 製造業基盤白書(ものづくり白書)第2節 人手不足が進む中での生産性向上の実現に向け、「現場力」を再構築する「経営力」の重要性
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2018/honbun/html/honbun/101023.html

10.経済産業省 製造業基盤白書(ものづくり白書)第2節 人手不足が進む中での生産性向上の実現に向け、「現場力」を再構築する「経営力」の重要性
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2018/honbun/html/honbun/101021.html

11.経済産業省 「ものづくりスマート化ロードマップ調査」2017年3月 調査報告書
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000093.pdf