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熟練工がいなくなる日~あなたは技術伝承をどう考える?2020年7月3日

熟練工がいなくなる日~あなたは技術伝承をどう考える?

総務省統計局の調査によると、日本の人口は2010年までは概ね1憶2800万人ほどで推移していました。しかし2010年を境に毎年約20万人近いペースで減少に転じています。 人口減少の大きな要因は出生率の低下が最も大きいとされており、日本は急速なスピードで少子高齢化が進んでいると言われています1)

そして製造業は、その影響を色濃く受けています。 製造業の就業人口は現在の分類で統計を開始した2007年の1165万人に比べ、2019年には1063万人と約100万人も減少しています。そのうち24歳以下の若年層の就労者数は90万人から74万人に減少しているのに対して、65歳以上の高齢者の就労者数は71万人から94万人と逆に増加しています2)

現在は政府の方針において、高齢者及び後期高齢者の再雇用が積極的に行われていますが、その政策にも限界があります。特に団塊世代と呼ばれる高度成長期に日本の製造業を支えてきた世代が75歳を超えるころには、日本の製造業の現場から大量の熟練社員が退職を余儀なくされることは確実です。

熟練工の大量退職はものづくり大国存続の危機的状況

それではなぜ、熟練した技能者がいなくなってしまうことが大きな問題となるのか、その中身について見ていきます。

統計局の資料の2019年の内訳に注目してみましょう。製造業における労働者の総数1063万人に対して、34歳以下の労働者数は264万人とおよそ25%にしかならないのに対して、45歳以上の労働者数は554万人と52%にも達しています。このままの割合で推移するとすれば、10年後には45歳以上の割合はさらに増加することは間違いありません

製造業の世界では新規に雇用した若者が、労働環境の厳しさなどからなかなか定着しないという問題に加え、いわゆる団塊世代が再雇用の期限を迎えるほか、団塊ジュニアと言われる世代の定年時期も迫っています。

技術の伝承には多大な時間と労力を要する

そんな中、これまで日本の製造業を支えてきた熟練工の持つ技術や技能の次世代への伝承が大きな課題とされています。 現在、熟練工と呼ばれる人たちが持っている技術や技能は、これまでの長い経験に基づいて蓄積されたものです。こうして蓄積された技術や技能が現在の日本のものづくりの現場を支えているといっても過言ではありません。

しかし、これらの技能や技術は座学的な勉強や一方的な知識の提供だけでは、次世代へと伝承してくことは難しいとされています。それはこれらの技術や技能が理論や学識によってのみ作られたものでなく、作業者の経験や勘、感覚によって磨かれてきたものだからです。そうした技能や技術を次世代へと伝承していくことは、莫大な時間と労力を要する作業です。

熟練工の技を次世代に伝えるための取り組み

しかしながら、こうした現状を憂いてばかりもいられない現実があります。前述の通り、日本の製造業はこれから急速に高齢化を迎えます。現在熟練工として働いている多くの人たちも遠くない将来、会社を去っていくことは確実です。そうした状況を踏まえ、大手製造業を中心にベテラン社員のもつノウハウや技能をできるだけ効率的に次の世代へと伝承する取り組みが加速しています。

『熟練工が勇退したら品質が安定しなくなったので自動化を進めたい』、では手遅れになる可能性が高いのです。

技能の数値化

近年のものつくりの現場では、多くの工作機械やその他の機器が数値制御によって稼働しています。熟練工と呼ばれるベテラン社員が、経験則や勘によって行っていた作業を細かく解析し数値に置き換えることで、ベテラン社員の持つ技能を再現しようとする取り組みが盛んに行われています。

例えば、これまで職人の手の感覚に頼っていた製品の磨き仕上げの精度を、面粗さ計などで測定し数値化し、目標とした数値を再現できる機械の制御や道具の選定を行うといった手法です。

技能の細分化

これまで一人の熟練工が素材から完成までの作業を一人で担っていた場合などは、その技術のすべてを次世代の一人に伝承することは効率的ではありません。 そのため、そうした複合的な技能を作業毎などに細分化し、一人の負担を小さくして継承するといった手法も注目されています。

早期の対策こそが最大の課題解決策

ここまで、技術伝承の取り組みについていくつか例を挙げてきました。しかし、一言に製造業といっても業態は様々で、A社で成功した取り組みがB社でもそのまま通用するとは限りません。また、取り組みを始めればすぐに結果が出るといったものでもありません。

会社や熟練工の持つ技術の伝承は、それらを蓄積してきた時と同様にトライ&エラーの繰り返しです。 熟練工の引退が現実味を帯びている中、技術伝承への取り組みはできるだけ早期に取り組むべき課題と言えます。

(参考文献)

1) 総務省統計局 「人口推移の結果の概要」
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2.html

2) 総務省統計局「2.高齢者の就業」
https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1212.html