KAIZEN記事

スマート工場とは?IoT利用により得られるもの2020年7月31日

IoTのもたらす可能性

下の図は2020年度版「小規模企業白書」からの引用です。中小企業の人手不足感について業種別に見たもので、製造業の従業員過不足DIは2013年度からマイナスになり、その後改善がみられるものの、依然として人手不足感が強いことがうかがえます。

出典:中小企業庁:2020年版「小規模企業白書」第1章 中小企業・小規模事業者の動向 P29第1-1-35図 1)

(注)従業員過不足数DIとは・・・従業員の今期の状況について、「過剰」と答えた企業の割合(%)から、「不足」と答えた企業の割合(%)を引いたもの。プラスならば過剰感(=人が余っている状態)になり、マイナスなら不足感(人手が足りない状態)となる指標。

小規模企業では慢性的な人員不足がおきており、長年にわたり培ってきた技術が次世代に継承できないなどの様々な問題が発生しています。こうした背景の下、近年ではIoT技術を積極的に取り入れる、あるいは取り入れを検討し始める製造業者が増えています。

IoTとは「モノのインターネット」と呼ばれる技術の総称で、ITやAIといった技術を複合的に取り入れることで、これまで人力に頼っていた様々なことを機械的に解決したり、解決の支援をしたりする技術です。

今回はそんなIoTが工場にもたらすメリットや具体的な取り組みについてご紹介します。

工場で活用されるIoT

実際に工場で活用されるIoT技術は非常に多岐にわたっています。今回はその中から「工場をリアルタイムに把握する技術」「技術の見える化」「エネルギー」「設備の予防保全」 の4つの課題について、IoT活用の事例を紹介します。

工場をリアルタイムに把握する技術

製造業において生産計画の見直しや変更は避けて通れない問題の一つです。

従来は人の手や目によって現場の状況を把握し、適宜工程の変更や組み換えなどを行っていました。しかし、こうした作業は工場の稼働に精通した熟練の作業者や管理者が居て初めて成り立ちます。 このような熟練工の育成にはそれ相応の時間を要しますし、そもそも人員を確保することが難しい状況では、工場を円滑に操業させること自体が難しくなってしまいます。

IoTではそうした課題に対し、ITを活用した機械の稼働率や空き状況の把握をリアルタイムで監視することで、突発的な工程変更や生産計画の変更に対し最も有効な手段が何であるかを導き出します。 具体的にはこれまで手書きや手動での集計を行っていた各製品のリードタイムや実際の加工時間などの情報をリアルタイムで集積し解析を行います。そうして得られた数値を基に効果的な生産計画の構築や、突発的な事象への対応策を導き出します。

技術の見える化

これまでいわゆる「職人の勘」に頼っていた作業内容を可能な限り数値に置き換えることで、熟練工でしか成しえなかった作業を誰しもが、簡単な訓練で行えるようにするものです。

例えば、熟練工が作業中の音や肌で感じている温度などをセンサーや様々な計器を用いて数値化します。そうして得られた様々なデータを蓄積し、その製品に最も合った作業方法や条件などを導き出す手段としてIoTが活用されています。

エネルギーの見える化

工場の稼働と合わせてエネルギー消費についても数値化し、解析・改善を行うことで工場の固定費削減にも寄与します。

具体的には各機械の消費する電力を電力量だけでなく、時間軸的な観点からも解析を行い工場の消費電力のピークがどの時間帯にどの程度であるかなどを細かく解析していきます。 その結果をもとに電力契約などを適切に見直すことで、電気料金の削減効果が見込めます。

また、使用している電力量を常に監視することも可能となるため、漏電などのトラブルにいち早く気が付くことができ、予期せぬトラブルを未然に防ぐといった効果も期待できます。

設備の予防保全

機械の中には自ら異常を検知して警報を出すものもあります。しかしビッグデータを活用することで、故障する前にある部品のある数値が規定値を超えた時には故障のリスクが高い、などの傾向を読み解くことが可能になります。

例えば、大型のコンプレッサでは部品交換の時期を診断するのに、音や振動から判断することがあります。具体的には、外部からモーターベアリング等の音を測定します。コンプレッサを止めずに診断ができるのでとても便利な方法です。この時に音と振動が異常値であれば分解メンテナンスを実施し、そうでなければ次回へ持ち越すといった処置が可能です。これらのデータを利用すると、故障の時期を予測することができます。
「来週中にこの部品が故障してラインが止まってしまいそうなので、毎週生産の落ち着く木曜日に部品交換を実施してほしいのですが、対応可能ですか?」
このようなやり取りを機械メーカとできる日も近いのかもしれません。

IoT活用のためには定期的な検討と見直しが必須

このように製造の現場ではIoTを活用することで解決できる可能性のある課題が数多くあります。しかし、こうした基幹技術はただ導入しただけではあまり効果を発揮しません。

自身の会社に不足しているものが何なのかを事前にしっかりと把握し、何のために技術を導入するのか、導入した後にどのように活用するのか、関係者で共有することが必須です。そのうえで不足している情報や技術を補うことのできる設備や環境を整えることを検討しましょう。ただ単にすべてを数値化しても、それは情報量の増加による混乱を招く結果にもなりかねません。

また、こうした情報は一度集積すれば終わりといったものではなく、常に情報を蓄積し内容を解析、必要によって収集するデータを変更するなどの見直しを実施することで、日々改善されてゆきます。

工場の生産環境は日々目まぐるしく変化します。そうした変化に柔軟に対応するには、継続的な運用と定期的な見直しが重要です。

(参考文献)

2020年版「小規模企業白書」第1章 中小企業・小規模事業者の動向 P29第1-1-35図
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/PDF/2020_pdf_mokujisyou.htm