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国内生産への回帰と工場を取り巻く環境2020年7月17日

国内生産への回帰と工場を取り巻く環境

新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、世界各地で部品調達を行っていた大手自動車メーカーや家電メーカーでは、部品の調達に行き詰まり、工場の稼働を停止するなどの措置を余儀なくされました。

また世界的な情勢不安が高まり、これまで政治的に安定していると考えられていた国々でも暴動の発生や大型経済圏からの離脱などによる税制優遇の撤廃など、安定的な部品供給が難しくなるケースも出てきています。 そうした情勢を背景に、国内の大手製造業ではこれまでコスト優先で進めてきた部品などの海外調達を見直す動きが活発になっています。

国内調達から海外調達へ、そして国内調達回帰への流れ

日本はもともと資源を持たない国として、原料を輸入し加工を施し製品として海外に販売する「加工貿易」を主たる手法として高度成長を遂げました。 1950年~1970年代にかけての高度成長期には、こうした加工貿易を支える小さな町工場が日本中に数多く存在しました。

しかし、1980年代以降、世界では大量生産・大量消費の時代へ突入し日本式の生産方法では価格的に世界と渡り合うことが厳しくなりました。そうした背景をもとに、国内の大手メーカーはこぞって海外拠点の整備による海外生産・直接販売などの手法や、部品を海外で大量に安く仕入れる方式にシフトしていきました。

そのため一時は日本中にあった多くの町工場が仕事を失い廃業するという事態にも発展し、「産業の空洞化」などと言われるようになります。また、追い打ちをかけるように世界的な不況が何度も起こり、そのたびに日本のものづくりを支えてきた中小の製造業事業所は苦境に立たされる結果となりました。

国内生産への回帰

国内の中小事業所が大きな打撃を受ける中、世界ではさらに大きな変化が起きています。 これまでグローバリズムの名のもとに進められた世界的視野での経済活動が、度重なる不況や今回の新型コロナウイルスの大流行などにより、見直される機運が高まっています。

また昨年発表されたイギリスのEU経済圏からの離脱も大きな要因の一つです。国内の大手メーカーでも、これまで海外で調達していた部品の一部を国内調達に切り替えリスクヘッジを図る動きが活発化しています。

国内調達への回帰にどう対応するのか

しかしながら、前述の通り日本の製造業を支えてきた中小企業は、1990年のバブル崩壊以降その数を減らし続けています。 そうした状況の中で、部品生産を国内に切り替えることは大きなチャンスであると共に、大きな課題も含んでいます。

国内の製造業の実態

中小企業庁の「2020年版中小企業白書」によれば、我が国の企業数は年々減少傾向です。1999 年を基準として企業規模別に増減率を見ると、いずれの規模においても企業数が減少しています。特に企業者数の9割近くを占めていた小規模企業が著しく減少しています。(※小規模企業者の定義…製造業その他においては、従業員20人以下の企業)

出典:中小企業庁 「2020年版中小企業白書」「第3章 中小企業・小規模事業者の新陳代謝」(第1-3-1図)

製造業に注目してみると、1999年を0とした場合2016年の中小事業者の減少率は30%を超えており、その後も減少の傾向は続いていると考えられます1)

こうした事業所の存続は国内調達を円滑に行うためには、無視できない課題です。

出典:中小企業庁 「2020年版中小企業白書」「第3章 中小企業・小規模事業者の新陳代謝」(第1-3-3図)

国内生産対応への課題と展望

そうした中、海外で生産されていた製品の国内生産への切り替えは、空洞化した産業の再興というメリットをもたらすと同時に様々な課題も含んでいます。 特に、高度成長期以降に国内の部品生産の大半をまかなってきた中小規模事業所の減少はその影響が大きいと言えます。

いまのままの減少傾向が続けばいずれまた国内での生産が立ち行かなくなる可能性も排除できず、新たなリスクとして台頭しています。 そうした現状を踏まえ、大手・中小などがそれぞれの立場においてどのように対応して行くかが非常に重要な課題となります。

大手企業の取り組み

2015年にISOの規定が大きく変更され、企業規模に関わらず製品製造における外注先の管理・監督義務が発注者側に大きく付加されるようになりました。 これは、これまで外注先に依存の傾向にあった製品の「品質管理」や「納期管理」はもちろん、部品の安定的な供給を確保するという目的での外注先の健全性などの確認を発注者側の責任として付加したものです。

日本国内の多くの大手企業も保有するISO資格を2015年度版へと変更しています。目的は単に品質の向上だけでなく、健全な外注先の確保・育成にもあるとされており、先細りの懸念のある国内の製造業を俯瞰しての対策でもあります。

国内生産への回帰をチャンスとするための課題とは

海外生産していた部品の国内調達への回帰は日本の製造業の価値を向上させる良い機会でもあります。これまでコスト優先であった海外調達に対し、高品質・高付加価値を国内での生産で達成することができれば、かつて「技術大国」と呼ばれた日本の強みを改めて世界に示すきっかけにもなり得ます。

経済産業省の発行する2020年度版ものづくり白書では、アジア諸国での人件費高騰などの影響により、海外から国内へ投資が戻る傾向も見られると報告されています。この兆候は2018年度以前からありましたが、2019年12月のアンケート調査では全体の11.8%の企業が過去1年以内に生産拠点を国内に戻したと回答しています。

出典:中小企業庁 「2020年版ものづくり白書」「第1章第2節 不確実性の高まる世界の状況と競争力強化」(図121-12)

国内回帰の理由としては品質や技術力の違いなど様々な理由がありますが、最も多くあった回答が、円安による人件費の上昇があります。一方、アメリカ、中国の貿易摩擦を挙げた企業数が大きく上昇しました2)

これは中国経済の先行き不透明感が数字となって表れた結果と言えるでしょう2)。また、現在も世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症の拡大も、製造業の国内回帰の後押しをしています。

2000年頃までは、日本の製造業は各工程を細分化し、複数国に分散することで最適なサプライチェーンを構築してきました。このグローバル・サプライチェーンは効率性の面ではとても優れていますが、不確実性については脆弱であることが明らかになりました。

代替の困難な部品を供給する拠点が閉鎖された場合、サプライチェーン全体に影響を及ぼすことになるのです。自動車部品で例えると、電源供給や信号を伝達するワイヤーハーネスという部品は車種により長さが違い、かつ自動生産の難しい部品と言われています。このような部品の供給が途絶えることで、完成車の出荷数に大きな影響を与える可能性があります。

このような事態を回避するために、2020年3月10日に「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策(第2弾)」が発出され、中堅・大企業に対する国内回帰を含めたサプライチェーンの再編を支援することが定められました。

国内生産への回帰をチャンスととらえるか、リスクと捉えるか。 国内の製造業として大きな転機を迎えていると言えます。

(参考文献)

1) 中小企業庁 「2020年版 中小企業白書」 https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/PDF/2020_pdf_mokujityuu.html

2) 経済産業省 「2020年版ものづくり白書」 https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2020/honbun_pdf/pdf/honbun_01_01_02.pdf