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分散化によるエネルギーミクスでの省電力2020年3月13日
分散化によるエネルギーミクスでの省電力
持続可能な社会を実現するために、再生可能エネルギーと合わせて鍵となるのがエネルギー供給の分散化です。分散化は再生可能エネルギーと相性がよく、これまで利用されていなかったさまざまなエネルギー源も利用可能になるというメリットがあります。
また、国・地域レベルでも、事業者や家庭にとっても、分散化は省電力という利益をもたらします。この記事では、分散化の意義と分散化で実現できる省電力についてわかりやすく紹介していきます。
1.エネルギー供給の分散化とは?
従来の集中型電力供給システムから分散型供給システムへの転換を図るのが分散化です。ここでは「集中型」「分散型」の意味と分散化のメリットの概要を解説します。
集中型電源と分散型電源
従来の電力供給システムでは、火力や原子力を用いる大規模発電所から需要家へ向けて電力が一方向に供給される仕組みになっています。大きな湖から複雑に枝分かれする何本もの川を通してエネルギーが遠隔地まで運ばれていく、といったイメージです。この大きな電力の源である発電所が集中型電源と呼ばれます1)。
一方、電力が消費される建物や地所内(またはその近隣)に設置される小規模な発電設備が分散型電源です1)。電力を発電地点で使う「自産自消」だけでなく、電力で生み出される熱を一定区画に分配するといった「面的利用」や、分散型電源のネットワーク化などが考えられています1)。
電力以外の分散型エネルギー
太陽の熱、雪・氷の冷気、河川水と外気の温度差などをヒートポンプ2)という装置を介して加熱・冷却に用いるのも、分散型エネルギー利用の一つの形です1)。
分散型電源による発電で生じる排熱を熱エネルギー源として利用することもできます。これらはコージェネレーションといい、後でくわしく紹介します。
分散化のメリット
集中型システムでは大きな地震などの災害により広範囲の電力供給がストップしてしまう危険があります。分散型電源は災害の影響が広がりにくく、緊急時の電源としても活用できます。分散型電源のネットワーク化が実現すれば地域全体の災害リスクを下げることが可能です1)。
太陽光や風力などの再生可能エネルギーは「立地」に依存し、大規模施設で集約的に運用することが困難ですが、分散型電源はむしろそれらと相性がよいのが特徴です3)。個々の需要家が電力供給に参加することにより、柔軟な電力供給システムの構築につながることが期待されます1)。
さらに、分散型電源は送電ロス(後述)が小さいため、活用が広がれば全体的な省電力が実現できると考えられます。自然の熱や排熱の活用によっても電力消費の削減が可能です1)。
2.分散化による送電ロス低減と省電力
電力は発電施設から消費地点まで送られる間に一部が失われます。分散化によりこの損失を削減できる可能性があります。
送電の仕組みと送電ロス
発電所で生み出された電気エネルギーは送電線を伝って各地に送られ、変電所で段階的に電圧を下げられたあと、配電線をたどって各需要家のもとに到達して消費されます。このとき送電線・変電設備・配電線の電気抵抗によって一部のエネルギーが熱や振動のエネルギーに変化し、最終的に外部に排出され失われます。これが送電ロスです。送電距離が長いほどロスは大きくなります4)。
分散化で送電ロスを低減
分散型電源の場合、発電装置と消費地点が近いため送電ロスは少なくて済みます。分散型電源が普及し、集中型電源とスマートに協働するシステムが実現すれば、集中型システムの送電系統をスリム化して送電ロスを削減することができ、国・地域レベルでの省電力につながると考えられます。
3.熱利用とコージェネレーションによる省電力
自然にある熱・温度差や排熱をエネルギーとして利用して省電力を達成する方法を紹介します。
熱・温度差の利用
太陽の熱を効率よく集める集熱器という装置を使って水や空気を温めることができ5)、オフィス、福祉施設、集合住宅などの暖房や給湯器に利用されています6)。
寒冷地域では冬期に降った雪や外気で作った氷を保存しておいて夏期の冷房に利用することが可能で、玄米・日本酒の貯蔵施設、栽培施設、サーバルームなどで導入されています7)。
水は大気に比べて比熱が大きく、熱せられにくく冷めにくいのが特徴です。とくに河川水や湖水、地下を巡る下水などの大容量水源の温度は気温との差が大きくなります。この温度差をヒートポンプによって加熱・冷却のエネルギーに変換し、大規模商業施設やオフィス街、住宅街などに供給する仕組みが実用化されています8)。
地中の土壌温度もある程度の深さ(10~15m)になると年間を通してほぼ一定になるため、温度差が利用できます9)。
コージェネレーション
発電装置で電力を得るのと同時に、装置から排出される熱をエネルギー源として活用するのがコージェネレーションです。
英語で「コー」は「共に、一緒に」、「ジェネレーション」は「産生」を意味します。排熱は何もしなければ大気中に拡散してしまい無駄になりますが、コージェネレーションによって暖房や給湯の熱源として利用することが可能になり、省電力につながります。
コージェネレーションは集中型電源でも行うことができますが、発電所は都市部や住宅地から離れているため排熱を有効活用するのは困難です。分散型電源であれば発電装置と需要家が近いため、排熱を容易に利用できます。産業用、業務用、家庭用のコージェネレーションシステムの導入が進んでいます10)。
(参考文献)
1) 資源エネルギー庁(2015年4月)「分散型エネルギーについて」
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/006/pdf/006_05.pdf
2) 日本エレクトロヒートセンター(最終閲覧日:2020年2月14日)「ヒートポンプの原理」
http://www.jeh-center.org/heatpump_genri.html
3) 東北エネルギー懇親会(2016年年5月)「再生可能エネルギーと省エネルギーを読み解く 再生可能エネルギー編 第五章」
https://www.t-enecon.com/cms/wp-content/uploads/2016/ebooks/energy-yomitoku.pdf
4) 東北発素材技術先導プロジェクト(最終閲覧日:2020年2月14日)「送電ロスとは…」
http://nanoc.imr.tohoku.ac.jp/column.html
5) 資源エネルギー庁(最終閲覧日:2020年2月14日)「太陽熱利用システム」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/attaka_eco/system/index.html
6) 資源エネルギー庁(最終閲覧日:2020年2月14日)「なっとく!再生可能エネルギー 太陽熱利用」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/solar2/ind ex.html
7) 資源エネルギー庁(最終閲覧日:2020年2月14日)「なっとく!再生可能エネルギー 雪氷熱利用」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/snow/index.html
8) 資源エネルギー庁(最終閲覧日:2020年2月14日)「なっとく!再生可能エネルギー 温度差熱利用」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/temperature/index.html
9) 資源エネルギー庁(最終閲覧日:2020年2月14日)「なっとく!再生可能エネルギー 地中熱利用」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/underground/index.html
10) 資源エネルギー庁(最終閲覧日:2020年2月14日)「知っておきたいエネルギーの基礎用語~「コジェネ」でエネルギーを効率的に使う」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/cogeneration.html