働き方改革と設備管理
普段のメンテナンス次第でトラブルを防ぐことが出来ます。
残業の発生要因を見直してみませんか。
生産技術職の数多い業務の中でも、生産設備のトラブルは緊急で対処しなければならない問題です。時にはラインにつきっきりになり、結果長時間の残業や休日出勤を余儀なくされることもあるでしょう。
トラブルの発生を未然に抑え、緊急対応が原因の時間外労働を削減するために、設備管理について一度見直してみるのはいかがでしょうか。
本記事では技術者の働き方改革と生産設備の管理について解説いたします。
働きがいのある人間らしい仕事
SDGsでは目標8で「包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的雇用とディーセント・ワークを促進する」としています。
- 8.2 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する。
- 8.5 2030年までに、若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一価値の労働についての同一賃金を達成する。
ディーセント・ワークとは
「ディーセント・ワーク」とは、ILOが1999年の総会以来提唱している考え方で、「働きがいのある人間らしい仕事」のことです。SDGsの8番目の目標に直接組み込まれていることや、2019年に働き方改革関連法が施行されたことから、国内でも注目が集まっています1)。
時間外労働を減らそう
技能人材が足りない!
製造業では慢性的に技能人材が不足しています。下のグラフは経済産業省が2017年に実施したアンケートの結果です。凡例のnは回答数をあらわし、グラフは「人材確保に課題がある」と答えた回答者の割合です。機械・鉄鋼・金属・化学等、すべての製造業で技能人材の確保に課題があることが分かります2)。
製造業の時間外労働の現状
厚生労働省が行っている雇用動向調査では、前職の離職理由として「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」と回答した人が例年上位にのぼり、特に若年層で多くなっています3)。
製造業の時間外労働の実態はどうなっているでしょうか。下の図は2021年のものづくり白書から、国内の5人以上の事業所における労働者1人当たりの労働時間を調査したものです4)。下側の折れ線が所定内労働時間、上側の折れ線が実労働時間を示し、上下の線の差が所定外の労働時間になります。
製造業は長年の間、他の産業に比べ時間外労働が多かったことが分かります。グラフの線は働き方改革が始まった2019年から下降し、新型コロナウイルス感染症の影響が大きかった2020年には他の産業との差も縮まっていますが、2021年以降経済の回復と同時に時間外労働時間が増えないようにするためには努力が必要と言えるでしょう。
人材を確保するためにも時間外労働の要因をチェックし、設備トラブルが多発しているようであれば一度メンテナンス体制を見直してみてはいかがでしょうか。
設備管理のポイント
設備トラブルを防ぐキーとなるメンテナンスについてみていきましょう。メンテナンスをきちんとすることには、トラブルの発生回数を減らす以外にも様々なメリットがあります。
メンテナンスをするメリット
メンテナンスを行えばある程度の手間や費用がかかりますが、適切なメンテナンスは費用の削減につながります。ここは発想の転換をしてみましょう。
- 適切なメンテナンスは設備の寿命を延ばします。高額な費用を払って購入した設備が5年で買い替えが必要になるのと10年使えるのとでは、かかる費用が大きく違ってきます。その分かれ道は、普段きちんとメンテナンスをしているかどうかです。
- メンテナンスはこまめに行えば、不具合が起きても小さなうちに気付くことが出来ます。放置すれば発生するかも知れなかった高額な修理費用を抑えることになり、メンテナンス費用自体の節約になります。
- メンテナンスの中には機械の安全性を保つ為に最低限必要な事項もあります。事故を防ぐためにもメンテナンスが必要であることを覚えておいてください。
メンテナンス費用節約のポイント
メンテナンス費用は努力次第で削減することも可能です。節約のポイントもあわせて確認しましょう。
- 消耗品はこまめなチェックを
- 適切なタイミングでおこなうこと
- 自分でできることを見つける
消耗品はこまめなチェックを
機械の消耗品は時間の経過や温度変化、湿気、運用方法などのさまざまな原因で劣化していきます。フィルタが詰まっていたりして機械が本来の性能を発揮できない状態で運用を続けた場合、さまざまな箇所で不具合が生じます。そのようなリスクから機械を守るためには、機械の状態をしっかりと把握し、異変があればその都度適切なメンテナンスを行って、最適な状態を保つことが必要になります。
適切なタイミングでおこなうこと
機械にはそれぞれ定められたメンテナンスのサイクルがあり、使用年数や稼働時間などによって決まっています。お使いの設備についても確認してみましょう。適切なタイミングでメンテナンスを行うことで設備を良い状態に保つことができますし、必要以上のメンテナンスをすることもありません。また、あらかじめメンテナンスのサイクルが分かっていれば設備を止めなければいけない時期も調整でき、生産への影響も抑えることができます。
自分でできることを見つける
メンテナンスには、消耗品の交換などの自分でできることと、メーカーや業者に実施してもらうことがあります。メンテナンスと聞くと専門知識が必要なイメージもありますが、実際は簡単に出来るものも多数あります。まずは取扱説明書を確認し、基本的なメンテナンスについて点検のタイミングや必要な費用をチェックしましょう。
窒素ガスに関する設備
設備の導入で管理の手間を削減
窒素ガスをお使いの工場では、ガスボンベの形で購入しているところも多いでしょう。使う量が一定であれば手配も定量で済みますが、使用量の変動が多い場合は常に在庫や使用予定を確認しなければなりません。特に24時間対応の現場では、常に材料切れを気にする必要があります。
こうした場合、ボンベの購入から窒素ガス発生装置に置き換えることで、管理の手間を大幅に削減できる可能性があります。窒素ガス発生装置は原料購入の必要が無く、電源を入れておけば常に供給を続ける為、原料切れを気にする必要がありません。逆に使用量が少ない時は、機種によってガスの発生量を抑制する機能がついたものもあります。
窒素ガス発生装置のメンテナンス
窒素ガス発生装置のメンテナンスについてもみてみましょう。以前の記事でご紹介したとおり、窒素ガス発生装置は大気から窒素を分離する装置と、分離装置に原料空気を送り出すコンプレッサからなっています。窒素ガス発生装置一式の中でメンテナンスの対象は、約70~80%が原料空気用のコンプレッサに関する事項と言われています。原料空気の品質と運用状況が良いと、空気取込み口のフィルタや分離装置の活性炭の寿命が長くなります。
原料用コンプレッサを給油式のコンプレッサで運用していると、圧縮空気中に油分が混入するため、窒素ガス発生装置の手前のフィルタ類で捕捉する必要があります。フィルタが油を捕捉し続けると次第に目詰まりするため、定期的なフィルタエレメントの交換が必要になり、場合よっては窒素ガス発生装置の最重要な消耗品である活性炭メンテナンスの負担が増えます。給油式のコンプレッサを使用している場合はこまめにフィルタをチェックし、目詰まりに注意しましょう。
オイルフリータイプのコンプレッサを採用した場合は、給油式にくらべ圧縮空気に油分が混入する機会が減少します。オイルの交換、廃棄処分が不要になるほか、フィルタエレメントと活性炭の双方、メンテナンスサイクルを延ばすことが出来ます。購入や買い替えの際にはメンテナンスのことまで考えておくと良いでしょう。