食品ロスの削減と窒素ガス

日本で捨てられている食品が年間何トンになるか、知っていますか。

「もったいない」を、もう一度。

日々廃棄される食品。家庭だけでなく、生産や流通の中でも食品ロスは発生しています。SDGsの推進を意識しなくとも、「もったいない、減らせないだろうか」と感じる方は多いでしょう。

SDGsでは、目標2の「飢餓をゼロに」で持続可能な農業の推進を、目標12の「つくる責任 つかう責任」で生産・サプライチェーンにおける食品損失の減少を目指しています。製造業においては食品の生産・流通過程で廃棄される食品を減らすことでSDGsの推進に貢献できます。

本記事では日本の食品廃棄の現状と社会の取り組みを取り上げ、食品保存用途で注目されている窒素ガス発生装置についてもご紹介いたします。

まだ食べられるのに捨てられている食品

政府広報オンラインによると、日本の食品廃棄物等は年間2,531万トン。そのうち食べられるのに捨てられる「食品ロス」の量は年間600万トンと推計されています。これは大型(10トン)トラックで1,640台分にもなります。日本の人口1人当たりにすると食品ロス量は年間約47キログラムです1)2)3)

世界全体での食料廃棄量は年間約13億トン。人の消費の為に生産された食料のうち、おおよそ3分の1を廃棄しています。また、日本の食料自給率はカロリーベースで38%。食料の多くを海外からの輸入に依存しています。日本の食品ロスを減らすことは世界全体の食品ロスを減らすことや、貴重な国内生産の有効利用にもつながります。

家庭での食品ロス

600万トンの食品ロス量の46%、276万トンが家庭からの排出になります。廃棄物の主な内容は食べ残し、手つかずの食品(直接廃棄)、皮の剥きすぎ(過剰除去)などです。

家庭系の食品ロスについて、消費者庁が平成29年に徳島県で実施した食品廃棄ロス削減に関する実証事業の結果があります4)。まだ食べられるのに捨てた理由として、(1)食べ残し57%、(2)傷んでいた23%、(3)期限切れ11%(賞味期限切れ6%、消費期限切れ5%)の順で多いことが分かりました。

これらの廃棄を減らすポイントは、「必要な時に」「必要なものを」「必要な分だけ」購入すること。実践すれば家計の助けにもなります。 あらかじめ献立計画を立てる、買い物のときはメモを持参するなどすれば、要らないものを買ってしまうことも少なくなります。

そして、昨今コンビニやスーパー各社で呼びかけられている「てまえどり」5)。陳列棚の手前の、消費期限の近いものから買ってもらう試みですが、食材をいつ使うかが分かっていれば、こうした取り組みにも協力することが出来ます。家庭やその周囲での食品ロスを減らすには、地道ですがこうした小さな行動の積み重ねが大切になります。

事業所の食品ロス

日本の食品ロスの残り54%、半分以上にあたる324万トンを占めるのが事業系の排出です。 廃棄物の内容は規格外品、返品、売れ残り、食べ残しなどです。

食品を提供する側である生産・製造・物流・小売り業者などでも様々な取り組みがされています。 例えば前述の「てまえどり」5)。環境省・農水省・消費者庁が大手コンビニ4社と共に取り組んでいますが、同様の呼びかけを行うスーパー等も増えています。

大手コンビニ各社では販売期限が迫った商品の割引販売やポイント付与の取り組みをはじめています。また、期限切れになってしまった商品も廃棄せず、飼料やたい肥にしたり、バイオガスの原料として使ったりする取り組みもされています6)7)8)9)

食品保存に役立つ窒素ガス

これまで見てきたように食品を大切に扱う取り組みも大切ですが、食品の鮮度を保ったまま長く保管出来るようになれば、傷んだり賞味期限切れで捨てられたりする食品が減り、食品廃棄量の削減につながります。

冒頭でご紹介した窒素ガスですが、食品保存目的では下記の効果が期待できます。

  • 酸化を防ぐ
  • 菌の増殖を抑える
  • 乾燥状態を保つ
  • 異物の混入を防ぐ
  • 食品の変形を防ぐ

窒素は大気の約8割を占めている無味無臭の気体です。入手や取扱いが比較的容易であることから、不活性ガスとして広く使われています。ボンベ・タンクの姿で工場・研究所に置かれている場合も多いですが、大気中に膨大に存在する窒素ガスは、自前の装置で大気から取り出して使うことも可能です。

一般的な工場や研究所で使われる窒素ガス発生装置は大気から窒素を取り出す分離装置と、分離装置に空気を送り出す空気圧縮機で構成されています。分離装置と空気圧縮機が一体になった製品も普及しています。

分離装置は主に二種類、膜分離方式とPSA方式になります。膜分離方式は窒素と酸素の混ざった大気を高分子膜に通し、通り抜ける速度の違いを利用して窒素の多い空気を取り出すものです。PSA方式は活性炭やゼオライトなどの吸着材を利用して酸素を吸着させ、窒素の多い空気を取り出すものです。

食品工場などで数多くのガスボンベを購入している場合は、自前の窒素ガス発生装置に切り替えることで大幅にコストを削減できる可能性もあります。

作った食品が無駄になることなく、新鮮なまま消費者の手元に届く。作り手としてもうれしい変化は持続可能な社会を実現することにも繋がります。職場での食品ロス削減もまた、家庭での小さな行動と同じく「もったいない」と思う気持ちが大切なのではないでしょうか。