コラム 塗装のコンシェルジュ
塗着効率をアップさせて、コスト削減と環境対策を実現しよう!
塗着効率をあげると、さまざまなメリットがあります。
塗着効率を上げることは、塗装に関わる人にとっては永遠のテーマ。塗着効率の向上は、塗料の消費量が減って製造コストが削減できるだけでなく、ブースの汚れが減って清掃などの負担が軽減されるなどのメリットもあります。
大掛かりな設備更新をしなくても、塗着効率を上げることは十分に可能です。そこで今回は、塗装品質をキープしながら、塗着効率を向上するポイントについて解説します。
塗装における課題「塗着効率」とは?
塗料を微粒化して吹き付けるスプレーガンによる塗装は、100年以上前に開発されたものですが、現在でも主流の塗装方法です。幅広い種類の対象物と塗料に対応できること、クオリティが高い仕上がりになること、時間短縮ができることなど、多くのメリットがありますが、一方で微粒化された塗料が飛散し、塗着効率が低くなるデメリットもあります。
0.2〜0.3MPaの圧縮空気で微粒化する場合、塗着効率は15〜25%程度と言われています。塗着効率が30%の場合、塗膜として定着する塗料の顔料分はそのまま30%になります。その他の70%は塗装ブースなど局所排気装置で捕集されます。
塗着効率が悪いということは、吹付けに使う塗料の量が増えます。当然、希釈する溶剤の量も増えることになりますので、発生するVOCが環境保護の観点から問題視されます。つまり、塗着効率を上げることは、コスト削減とともに、環境対策的にも重要です。社会的ミッションになりつつあるので、自動車メーカーを始めとして、製造業全体で塗着効率を上げる取り組みが盛んに行われています。
例えば、アネスト岩田の EAコーティング は、エアーを使わずに静電気のみで塗料を霧化させる方式です。塗着効率を下げる原因になるエアーを使わないので、ほぼ100%の塗着効率を実現しています。
スプレーガンの作業改善ポイント
大掛かりな設備刷新を行わなくても、スプレーガンの作業を見直すだけで塗着効率をアップさせることはできます。VOC削減に取り組む環境省からも、塗着効率を上げるポイントが紹介されています。
図1 塗装条件と塗着効率の変化
上記の他にも、スプレーガンをゆっくり一定速度で動かしたり、塗り重ねの間隔を1/4〜1/2の範囲に保つことも、塗着効率向上のためのポイントです。
これまで塗装を担当する人の熟練度は、塗面を美しく仕上げることや、要求された塗膜の厚さを正確に実現できることに重きが置かれていましたが、今後は塗着効率が高いことも評価の対象として重視すべきです。
例えば、塗着効率が20%上がったとすると、これまで1ヶ月の塗装資材(塗料+溶剤)にかかるコストを150万円とすると、1ヶ月で30万円ものコスト削減となります。
スプレーガンのタイプ別塗着効率
塗着効率向上のための有効な手段のひとつが、低圧スプレーガン、静電スプレーガン、エアレススプレーガンの導入です。下の表は理想的な環境で塗料を塗った時の塗着効率を示します。ただし、実際には被塗物の形や温度湿度により塗着効率は変わります。計算通りにはいかないのも、難しいところです。
図2
低圧スプレーガンは一般的なスプレーガンの塗着効率が15〜25%であるのに対し、25〜40%まで向上させることができます。多量のエアを使うことで吹き付けるエアの圧力を低圧に抑制します。高粘度の塗料には不向きですが、メタリック塗装やエナメル塗装には向いています。
静電スプレーガンは、塗着効率の点ではもっとも優れています。仕上がりも美しいのですが、スプレーガン自体が高価で導入コストが高いところがデメリットです。エアではなく、液体に圧力をかけて霧化するエアレススプレーガンは、塗着効率を50%程度にアップできます。仕上がりがやや粗いために小物の塗装には不向きですが、塗装スピードが速く厚塗りが可能なので、広い面積の対象物に向いています。高粘度の塗料も使用できます。
まとめ:スプレーガンの作業や環境を見直して、塗着効率をアップ!
塗着効率の向上は、日々の塗装作業を改善するだけで実現することが可能です。また、スプレーガンのタイプ選定も要素のひとつ。設備環境、使用塗料などによって最適なスプレーガンは異なりますが、合わないスプレーガンを使い続けていると、作業効率の低下だけではなく、思わぬコスト増につながっている可能性もあります。
もちろん、塗装作業者の慣れや癖の問題から、思ったような大きな効果を出せないこともあると思います。合うスプレーガンがわからない、最新のスプレーガン情報を知りたいなど、スプレーガンについての疑問や質問があれば、使用メーカーに問い合わせてみてください。