コラム 塗装のコンシェルジュ
塗装工程のエネルギー消費量は?最新の環境対応についても解説!
塗装は日々、エコを目指しています。
近年の環境意識の高まりとともに、事業活動においても環境に与える影響について考慮しなければならない時代になりました。
製造工程の中でも、特に消費エネルギーが大きく、環境対応を迫られているのが塗装工程です。この流れの中で、環境に配慮した塗装の技術や設備が次々と登場し、技術革新が進んでいます。そこで今回は、塗装の中でも大きなエネルギーを使う工程や設備、塗装法ごとの環境に与える影響、最新の環境対応の動向などを解説します。
塗装工程が環境に与える影響とは?
製造工程の中でも、塗装工程は特にエネルギーの使用量が多く環境に与える負荷が大きいと言われています。
その理由は、塗料の吹き付けには大量の圧縮空気が必要だからです。他にも塗装ブース内の空調をキープしたり、乾燥のための熱風が必要だったり、多くのエネルギーを使う作業が多いです。コストがかかるだけでなく、多くのCO2を排出するので、近年深刻化している地球温暖化対策のためにはエネルギー消費を減らす必要があります。また、塗料に含まれるシンナー成分によるVOC(揮発性有機化合物)の抑制も求められています。
塗装法別のエネルギー消費のポイント
塗装法別にエネルギーの消費量など、環境に与える影響について解説します。
溶剤塗装
もっともオーソドックスな塗装方法で、シンナーなどの有機溶剤に塗料を混ぜて溶かし、主にスプレーガンを使って塗布します。焼き付け温度は他の塗装法よりも低めです。
しかし、オーソドックスな塗装だけに塗装職人の腕に出来栄えが左右されることが多いことも事実です。近年増えている高輝度塗料など、吹き付けの難しい塗料だと何度も重ね塗りをしたり、失敗すると塗り直したり、そのたびにスプレーガンのエアーを作るエネルギーが必要になります。また、長時間の作業になって塗装ブースの空調の稼働時間が長くなったりすることがあります。また、VOCが飛散しやすいことも課題です。
水性塗装
溶剤塗装と同様に古くからあり、オーソドックスな塗装のひとつですが、耐久性が低い、ツヤが足りないなど、塗膜性能が溶剤塗装よりも劣る、と言われてきました。
しかし、近年では焼き付け乾燥の前に予備乾燥をしたり、塗装ブースの温湿度管理を厳密にしたりすることで、塗膜性能を高められるようになっています。また、乾きにくいことも特徴で、溶剤系の塗料とは塗装方法が大きく変わります。具体的には乾かす回数が増え、その分エネルギー負荷が増加するので、CO2排出が多くなりがちです。 一方、水性塗装はシンナーなどの有機溶剤を使わないので、VOC対策としては優れています。
粉体塗装
有機溶剤や水などの溶媒を使わず、100%粉末状の塗料を使用する塗装です。静電気を利用して、塗料を付着します。
高温で焼き付け乾燥を行う必要があるので、乾燥でのエネルギー負荷は大きくなりますが、1回塗りでOKです。厚膜で塗装ができるので耐久性が非常に良く、VOC排出はほぼありません。反面、頻繁な色変えができないことや、色を混ぜることができないので色の種類が少ないなどのデメリットがあります。
特にエネルギー消費量が多い作業
塗装工程には多くの作業がありますが、特にエネルギー消費量が多いのは「吹き付け」と「焼き付け」です。
塗装
多くの製品は1度の塗装では済まず、塗り重ねる必要があります。例えば、自動車製造工程では、中塗り→ベース1→ベース2→クリア、と何度もスプレーで塗り重ねる必要があり、そのたびに大量の圧縮空気を消費します。
コンプレッサが工場全体の電気代の約3割を占めることは、よくご存じの事と思います。また、塗装工程が行われるブース内の空調も管理する必要があり、適温は15〜25度と言われています。また、部屋の湿度も管理する必要があり、湿度が低いと乾燥が早くなって塗面がバサついたり、逆に湿度が高いと白化という現象が起きたりします。部屋のエアコンのように密閉空間ではなく、局所排気装置で常に空気が吸い出されている環境で温度・湿度を維持することはとてもエネルギーを使うのです。
近年は塗膜性能が高まった水性塗装も多く使われるようになりましたが、希釈剤として使用されている水分を蒸発させるフラッシュオフ工程では、加温と冷却に多くのエネルギーが必要となります。
焼き付け乾燥
もっともわかりやすくエネルギーが消費される工程が乾燥です。塗料を安定付着させるためには高温での焼き付けが必要で、乾燥炉内を高温にして溶剤分を揮発させて被塗物に付着させます。この熱を作るための燃焼エネルギー量は、塗装工程の中でも最大です。
近年の環境配慮の動向
塗装工程の消費エネルギー削減を目指し、さまざまな新技術が登場しています。近年の動向を整理してご紹介します。
水性塗装の技術革新
CO2排出量が多くなりがちな水性塗装ですが、新たな高機能塗料の開発や塗装ブースの技術革新が進んでいます。例えば、自動車メーカーと塗料メーカーが協働して塗料を開発することで、中塗りを削減し乾燥工程の一部を省略するような塗料を開発しています。
塗料の技術革新
省資源、省エネ、環境負荷低減などを実現した新しい塗料の開発も進んでいます。特に多くのエネルギーを消費する焼き付け乾燥では、従来よりも低温の120℃以下で焼き付けのできる塗料や、焼き付け乾燥の工程を1回に削減できる塗料が開発されています。
塗装ブース、乾燥炉の省エネ化
塗装ブースや乾燥炉で消費するエネルギーを削減するために、空調設備の稼働を最適化して省エネを図る技術が登場しています。例えば、外気温に応じて自動的に最適制御ポイントを決定し、最も省エネとなる運転方法を選択する制御技術が注目されています。
まとめ:最新情報を把握し、塗装工程を見直そう!
塗装工程は大きなエネルギーを使いますが、技術革新が進んでいる分野でもあります。それだけに、最新の情報を把握し、適切な塗装工程を構築すると、想像以上のコスト削減につながることもあります。塗装方法を改めて見直し、最新の設備や塗料を積極的に活用することを検討してみましょう。