圧縮空気の衛生リスク
ユーティリティエアがきれいか、考えたことはありますか?
食品製造業の現状
2020年6月から改正食品衛生法が施行され、食品を扱うすべての事業者にHACCPに沿った衛生管理の実施が求められるようになりました。安全意識の高まりにともない、HACCPの他にもFSSC22000の認定取得や、作業環境の改善をせまられている事業者の方も多いのではないでしょうか。
食品衛生管理の中で、食中毒菌対策と並んで重要なのが異物混入対策です。異物混入でよく話題になるのは髪の毛や虫、プラスチック片などの混入事例ですが、見過ごしてはいけないのが圧縮空気からの異物混入リスクです。
工場の動力には古くから圧縮空気が使われています。危険性の低さや取り扱いの容易さから、工場を建設する際にユーティリティとして導入されることが多いのです。食品工場でも圧縮空気はユーティリティとして一般的に使用されていますが、手軽に利用できる反面、圧縮空気の品質についてはあまり意識されていないのが現状です。
圧縮空気の品質を下げるのは (1)オイル (2)水分 (3)ダスト の3要素です。この3要素はそれ自体食品に混入すれば異物となるだけではなく、機械トラブルなどの様々な問題を引き起こす悪玉の性格を持っています。また、これらのリスクを排除するためにはフィルタの設置、配管のステンレス化など様々な「コスト」が掛かることもあります。
本篇では食品衛生上「圧縮空気」の利用で考えるべき課題と、そのコストについて解説します。
課題①:異物混入や製品品質の課題
工場では機械の動力源として圧縮空気(以下、エア)が使われることが多く、エアを作るためにコンプレッサが使われます。エアに含まれる異物はオイル、水分、錆び、ダストなどで、コンプレッサから発生するモノだけではありません。食品工場では、生産設備からの異物混入対策のみならず、コンプレッサと周辺のエア機器からの異物混入リスクも理解し、対策を実施することで、より高いレベルの衛生管理が可能になります。
1.オイルの混入
圧縮空気を作り出すコンプレッサにはいくつか種類があります。圧縮室内にオイルを使う給油式と、まったくオイルを使わないオイルフリー式です。オイルフリー式のコンプレッサには、オイルの代わりに水を使う水潤滑式という種類も含まれます。
給油式のコンプレッサから吐き出されるエアには、必ずオイルミストが含まれます。このオイルミストは周囲のダストと混ざり、周辺環境にさまざまな悪影響を与えます。例えば、生産設備の摺動部に入り込むと機械が傷つき、故障の原因になります。また、人体に有害な物質ですので、製品に混入することは許されません。
オイルミストを製品や機械に混入させないために、フィルタを設置している工場もあると思います。しかし、フィルタでの捕集は完璧ではなく、メンテナンスを怠ると大きなリスクになります。
コンプレッサの出口から吐き出されたエアは高温であり、気化した状態(①)で含まれます。フィルタは冷えて液化したオイル(②)を捕集することはできますが、気化したオイルのほとんどを通過させてしまいます。フィルタエレメントを通過したオイルは配管内で冷えて液状(③)になり、配管の中を通ります。コンプレッサや空気タンクの出口にオイル捕集用のフィルタを設置しているはずなのに、配管からオイル混じりの水分が出るのはこれが原因です。
①気化したオイル ②オイルミスト ③液状のオイル
また、フィルタは定期的な清掃を怠ると、除去したオイルやダストを二次側に流出させることがあります。つまり、給油式コンプレッサを使用している限り、オイルの混入を防ぐことは不可能です。
給油式コンプレッサのオイルには、フードグレードオイルという種類があります。これは『食品に接触するべきではないが混入しても安全』なオイルです。しかし、配管の中は決してきれいではありません。 たとえ混入しても安全なオイルであっても、配管に溜まった水分やホコリと結合すれば、異物になってしまいます。また、劣化したオイルが混入する可能性も捨てきれません。
コンプレッサをオイルフリー化することこそ、オイルが混入するリスクを減らす根本的な解決方法なのです。
もちろん例外はあります。コンプレッサの吸い込む空気に油分が含まれている場合、その油分がエアに含まれることになります。コンプレッサが吸い込む空気の品質にも気を配る必要があるのです。
2.水分・錆の混入
コンプレッサから吐き出されたエアには水蒸気が大量に含まれますので、ドライヤの設置は必須です。
水蒸気は配管中で温度が下がることで結露し、配管の中に溜まります。この水分が配管の金属と反応して錆が発生します。配管を少しだけ(5°程度)傾け、ドレン抜きと言われるバルブを設置するのは、溜まった水分を定期的に排出して錆の発生を抑制することと、二次側への水分混入を防ぐためです。
ドレンの発生はすべてのコンプレッサに共通の現象ですが、給油式コンプレッサの場合は配管中にオイルが回って錆びにくくなるので気付きにくいかもしれません。
さらに、配管の長い工場ではドレンが発生しやすくなりますので、二次側の生産設備の直前にドライヤを設置するなど水分の除去に気を遣う必要があります。ホコリや錆などの混ざった水分が異物混入のリスクになることは間違いありません。
3.配管材質の品質
工業製品を作る工場のエア配管では、SGPの配管が使われることが多くあります。 SGPとは広く使われるパイプの種類で、一般的に鉄管と呼ばれます。材質は鉄なので、水分と酸素と触れ合うと錆が発生します。配管の中には適度な水とエアがあるので、とても錆びやすい環境だと言えます。そのため、食品工場など厳格な衛生管理の求められる配管では、SUS(ステンレス)配管やサニタリー配管が使われることが多くなります。
ステンレスには多くの種類がありますが、全般的に耐食性や耐熱性が高いので目的や用途に応じて使い分けられます。周囲環境によって様々ですが、食品工場の配管ではSUS304を多く見受けます。これは錆びにくいということと加工のしやすさ、単価の兼ね合いで選定されていると推測されます。
4.配管接合の違い
配管の接合方法にも種類があります。よく見る配管はねじ込み配管や溶接配管、フランジ配管などです。
ねじ込み配管では、パイプの外側と、ジョイントになる管材の内側にねじを切り、配管同士をつなぎ合わせます。最も安価でできますので、工業製品の工場ではよく使われている方式です。工場の配管は頻繁に着脱するものではありませんので、ねじの部分には接着剤を塗布して固定したり、シールテープを巻いてエア漏れを防ぎます。ところが、この接着剤やシールテープが経年劣化すると配管内のゴミになり、異物混入の原因になります。さらにネジの部分には段差ができるので、配管内のダストや水分、オイルなどが溜まる原因になり、異物混入の温床になります。
溶接配管はその呼び名の通り、配管の接合部を溶接することでつなぎ合わせます。ねじ込み配管と比べて接合部に段差ができにくいので、オイルや水分、ダストが比較的溜まりにくい方法です。ただし、容易に工場のレイアウト変更ができないなどのデメリットがあります。
フランジ配管は、フランジ継手と呼ばれる円筒と円盤部分からなる部品をパイプの端部に溶接し円盤部分同士をボルトなどで締結する方法です。エア漏れは円盤部分にガスケットと呼ばれるパッキンを挟むことで防止します。ねじ込み配管と違ってシール材などの異物が混入しにくく、かつ溶接配管と違って部材の取り外しが容易でメンテナンスしやすいという特長があります。
配管の品質を高めることで、錆びが発生しにくくなり、さらに継目などのダストや水分の溜まりやすい部分を極力減らすことで、異物混入のリスクを減らすことが可能です。
課題②:コストの課題
- 配管のコスト
- ドレンの処理コスト
コンプレッサからはドレンと呼ばれる水分が必ず発生します。ドレンは吸込み空気に含まれている水蒸気がコンプレッサ内で凝縮され、発生するものです。
水分は空気タンクや配管を腐食させる原因になり、シリンダーや電磁弁などのエア機器の故障原因になるほか、ドレン水を産業廃棄物として廃棄する際に大きなコストが発生します。ドレンを産業廃棄物として処理する場合、適切な排水処理とその証明書の保管などの排気のためのコストと管理コストが発生する可能性があります。
配管のコスト
配管の中に混入した水分は配管を錆びさせる原因になります。その配管を通ったエアを使用して機器を動かした場合、機器の動作中に排気されるエアから錆などが舞い、食品に付着してしまう恐れがあります。
そのため、食品工場など厳格な衛生管理の求められる配管では、SUS(ステンレス)配管やサニタリー配管が使われることが多くなります。 サニタリー配管とは衛生管理が重要な食品・薬品・半導体などの製造工程で使用される配管です。材質はSUS304で、内外面とも研磨処理がされていて、汚れが付きにくく、付着しても落としやすい形状のモノを言います。
一般的な通販サイトの販売価格で比較してみます。配管径40A、長さ1000mmの価格はそれぞれ下記のようになります(2020年1月時点)
材質 | 値段 |
---|---|
SGP | 600~700円/m |
SUS304 | 約2,000円/ |
SUS304(シームレス管) | 約4,000円/m |
サニタリー管(外径2S) | 5,000~6,000円/m |
SGPが最も安く、SUS304は約3倍、SUS304の継目無し(=シームレス)管は5倍以上、サニタリー管は10倍ぐらいの価格になります。 これはパイプのみの価格ですので、配管をつなげるためのジョイントが別途必要です。
ねじ込み配管とフランジ配管で必要な部材を比べてみましょう。
SGPの場合は鉄製の管継手を準備します。これは数百円で購入できます。フランジ配管の場合はフランジ2個とガスケットが必要です。鉄製フランジの場合は1,500円程度、SUS304だと3,500円程で購入できます。 食品工場の配管は材質と使い勝手、メンテナンスやレイアウト変更の容易さから【SUS304のフランジ配管】、あるいはこれ以上の品質を推奨します。求められる衛生管理のレベルにより、さらに高い配管品質を求められることもあります。
一般財団法人 食品産業センターの発行の「よくわかる高度化基盤整備事項解説」によると、水の配管には以下のように記載されています。
「配管の管理:内部は、サビの発生やスケールの付着などが発生します。可能であれば、ステンレス製の配管の使用、管内の洗浄と殺菌ができる配管の構成、定置洗浄装置を設置します。」
圧縮空気の配管においても、前述の通りドレンが溜まることで、サビが発生する可能性があります。水の配管と同様の対策をしておくことは義務ではありませんが、予防保全の観点で意味があると言えます。
ドレン処理のコスト
コンプレッサから吐き出されるエアには水分が含まれると書きましたが、圧縮空気に含まれる水分が結露して液状になったものをドレンと呼びます。給油式コンプレッサの場合は、ドレンの中にコンプレッサオイルが含まれますので、通常の下水処理ができません。産業廃棄物として廃棄することになります。
コンプレッサから排出されるドレンは夏場の湿度の多い時には1時間当たり何リットルも出ます。気温30℃、湿度80%の環境で37kWのコンプレッサを1時間運転すると、約8リットルのドレンが排出されます。産廃の処理は重量当たりの単価で計算されることが多いので、そのまま産廃処理しているととても高額になります。そこで油水分離装置というものがあります。ドレンに含まれる油分をフィルタで吸着して重量と容積を減らす装置です。しかしながら、定期的なメンテナンスとフィルタの交換費用は必要です。
これに対して、オイルフリーのコンプレッサから排出されるドレンには、基本的にオイルは含まれません。(※基本的に、と言うのは、前述の通りコンプレッサが吸い込む空気にオイルが含まれるようなことがあれば、ドレンにもオイルが含まれるからです。)
オイルフリーコンプレッサから排出されるドレンは、錆びなどの状況に左右されますが、下水処理が可能ですので、産廃費用を削減できます。コンプレッサをオイルフリー化することのうれしい副産物です。
オイルフリーコンプレッサの利用
- オイルから生じるコスト
- アネスト岩田のコンプレッサの特長
食品のグローバル化が進むなか、安全性へのリスクはさらに高まり、食品工場では厳しい品質管理が求められ、発生する可能性のあるリスクをコントロールし、回避することが重要な課題となっています。オイル式コンプレッサが食品工場の生産ラインで稼働すると、さまざまなリスクが発生し、品質管理に悪影響を及ぼす可能性があります。
オイルから生じるコスト
圧縮空気利用環境における食品衛生への対応やそれに必要なコストの増加は多くが「オイル」によるものになります
- 気化したオイルはフィルタで捕集できない
- フィルタで捉えきれないオイル、水分、錆が配管に溜まる
- 濾過したオイルがフィルタの目詰まりを起こし異物を捉えきれなくなる
- 電磁弁から排出される空気にオイル臭が混ざる
- 圧縮空気に混ざる水分、オイル、錆が生産設備の動作不良を引き起こす
- 油分が多く混ざるドレン水は産業廃棄物として処理コストがかかる
- 産業廃棄物処理コストを下げるための油水分離機やフィルタのコストがかかる
こういった衛生面での品質の向上やコストを削減する際にコンプレッサをオイルフリーにすることで解決が可能です。
アネスト岩田のコンプレッサの特長
圧縮空気の清浄度を示す圧縮空気品質等級は、ISO8573-1(JIS B8392-1)で制定されています。Class 0相当では、圧縮空気に含まれる”液状オイル””オイルミスト” ”油煙”の3つの要素が限りなく少なくなければなりません。特に油煙はエアフィルタで取り除くことができないため、コンプレッサから吐き出される空気の品質がClass0(相当)であることはクリーンエアを必要とする工場にとって、非常に重要な要素となります。
アネスト岩田では、オイルフリーコンプレッサSLPシリーズ・FRLシリーズにおいて、Class0相当(自社調べ)の品質を有します。生産ラインのさまざまなリスク低減に貢献し、安心してご使用いただけます。